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名古屋高等裁判所 昭和56年(ネ)613号 判決 1983年6月15日

控訴人

後藤勝正

右訴訟代理人

高井直樹

被控訴人

奥村さち江

右訴訟代理人

青木茂雄

池田伸之

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  別紙預金目録記載の各預金債権につき被控訴人が二分の一、控訴人が二分の一の各準共有持分を有することを確認する。

2  被控訴人のその余の本訴請求、控訴人のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一別紙預金目録記載の各預金(以下本件預金という)がいずれも後藤嘉一(以下嘉一という)名義で預り入れられていること、右嘉一が昭和四八年頃から昭和五五年一〇月二五日まで病床にあり、右同日死亡したこと、嘉一死亡により同人の権利義務を控訴人が相続したこと、及び右預金証書と届出印鑑を被控訴人が所持していることは当事者間に争いがない。而して、控訴人は本件預金債権が生前嘉一に帰属し、同人死亡により控訴人がこれを相続したと主張し、被控訴人は、右預金債権は被控訴人固有のものであると主張し、争うので以下判断する。

二<証拠>を総合すると次の事実を認めることができる。

被控訴人は昭和三八年頃嘉一と知り合い、昭和四〇年八月頃(当時被控訴人四三歳、嘉一七六歳)同棲生活を始めたが、嘉一の子供らから結婚を反対されたほか、入籍すると嘉一の債務を負担することになると考え、婚姻届はしなかつた。当時嘉一は証券会社の外務員として月額約二〇万円を得ており、被控訴人は料理店の調理師として月額3.4万円を得ていた。二人の生活費はそれぞれ自己の分を自ら出捐するほか毎月一万円程が嘉一から被控訴人に渡されていた。ところが、嘉一は昭和四二年頃脳軟化症で倒れ、一旦回復したが、その後二回目・三回目と倒れ、昭和四八年頃から病床につき、昭和四九年八月三〇日限りで右証券会社を退社し、外務員積立金一一〇万円余りの返還を受けた。嘉一はまた昭和四八年六月より昭和五〇年二月までの間、被控訴人名義で商品先物取引をし損金二二〇万円余りを生じたこともあつた。ところで嘉一が病床につくようになつてから、被控訴人は勤務を続けながら嘉一の身の回りの世話をしていたが、二人の収入は、嘉一分として昭和五三年頃より家賃月額一万円死亡当時一万五〇〇〇円、昭和五二年頃より老齢福祉年金月額七〇〇〇円死亡当時二万二五〇〇円位、寝たきり老人手当月額三〇〇〇円死亡当時五〇〇〇円位、以上合計死亡当時四万二五〇〇円程あり、被控訴人は前記料理店から月額八万円程の給料を得ていた。そしてこれら双方の収入をもつて二人の生活費にあてていたが、余裕のあるときは、嘉一宛に振込まれた前記手当金をそのまま預金口座に預り入れたままにしたり、被控訴人の給料の一部や余剰金を預金したりしていた。そしてこれらが嘉一名義の本件預金となつたものである。

以上の如く認めることができる。<反証排斥略>。而して嘉一と被控訴人が事実上の夫婦としての生活費を折半・按分・その他如何なる割合で分担するかについて両者間に合意が成立していた事実を認めさせる証拠はない。すると両者は二人の収入を合算しこれらを生活の資とし余剰の分を嘉一の名義の本件預金としていたものと認めるのが相当であり、本件預金中には嘉一固有の収入分と被控訴人分が混在しており、しかもその額または割合は明らかにすることができないというべきである。もつとも、<証拠>によると、本件預金とは別に、以前より東海銀行、名古屋相互銀行の各春日井支店に被控訴人名義の預金口座があつたこと、また被控訴人が現在居住する春日井市春見町一一番地家屋番号同所一一番一木造瓦葺二階建居宅(一階29.75m2二階24.79m2)は昭和四〇年一二月ごろ被控訴人名義に所有権保存登記されているほか、右の敷地である同所一一番七九宅地61.35平方メートルは昭和四六年四月ごろ、その隣地である同所一一番二宅地60.72平方メートルは昭和四九年六月ごろそれぞれ嘉一より贈与を原因として被控訴人に所有権移転登記手続がなされていることが認められるが、これらの事実があるからといつて、前認定を覆すことはできない。すると本件預金債権は嘉一と被控訴人両名の準共有にかかるものというべく、そして準共有者の持分は相等しきものと推定されるところ、本件においては右推定を覆すに足りる的確な証拠はないというべきである。

三以上によると、被控訴人の本訴請求及び控訴人の反訴請求は、本件預金債権につき被控訴人が二分の一、控訴人が二分の一の各準共有持分を有することの確認を求める限度で理由があり、同限度で認容すべきであるが、その余は失当である。すると、右と結論を一部異にする原判決は変更を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

預金目録<省略>

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